エコナビスタから業界初デュアルAI睡眠センサー「ライフリズムナビ新型 SleepSensor」が発表された。まもなく当製品が搭載された介護施設向け高齢者見守りシステム「ライフリズムナビ®+Dr.」および在宅向け「ライフリズムナビ®+HOME」が世に届けられていく。当ページでは–開発者の声–として、CTOの安田にインタビューした。
◆高齢者向け睡眠センサーはパンドラボックスと言っても過言ではない
◆睡眠センサーは、発展途上。同時に風評作りの製品でもある
◆山あり谷ありの開発中に見出した「自社開発」という起死回生の道
◆究極の正確性と即時性を求め、チームで開発サイクルの追い上げを図る
◆介護施設導入実績トップクラスの睡眠センサーは、ここで終わらない
CTO Profile
安田輝訓(Yasuda Terukuni)
大阪外国語大学(現 大阪大学)外国語学部 卒業後、株式会社総医研ホールディングスの創業メンバーとして参画し、IPOを行う。その後、株式会社エビデンスラボ 副社長就任。2011年より エコナビスタ株式会社のCTOを務める.
高齢者向け睡眠センサーはパンドラボックスと言っても過言ではない
今回エコナビスタがリリースした「ライフリズムナビ新型 SleepSensor」は介護の現場での業務を削減し、介護職員の負担を軽減するために睡眠解析技術をベースにしたクラウド型高齢者見守りシステムに搭載する新型センサーだ。エコナビスタCTOの安田は、睡眠センサーが急速に世の中に浸透している一方、なかなかうまい活用術を見出されていないのが実情だと話す。
安田:近年、睡眠センサーを用いたアプリなどが流行っています。自発的に睡眠センサーを利用されるような方は、健康を維持する目的で使うことが多く、睡眠環境を整えた状態で就寝しているため、各社が取得している睡眠データを高齢者に活用することはできません。
なぜなら、弊社がアプローチしている介護現場で睡眠中のバイタルを取るにはふたつのペインポイントがあるからです。
ひとつ目は、介護現場の睡眠センサーの利用シーンは決して環境が一律ではないことです。介護現場では、“寝ている側”ではなく、“寝ている高齢者を見守る側”が睡眠センサーを使うため、対象の高齢者もバイタルを取れるように就寝しません。むしろ認知症を始めとした疾病を持つ方も多いため、寝具も疾病に適したさまざまな物が使われますし、健常者では考えられないような寝相で寝る方もいらっしゃいます。そのため、あらゆるパターンを想定しなければいけません。
ふたつ目は、高齢者のバイタルデータは単純に取りにくい、というものです。健常者と違い、高齢者のバイタルは微弱です。介護レベルによっては、筋肉量が少なく体重が極端に少ない方もいます。そのため、センシングすることが難しいのです。
介護現場で使う睡眠センサーは、思った以上に繊細で高機能なものでなくてはならない。だからこそ、なかなか手を出せない企業も多い、まさにパンドラの箱状態なのだ。
介護用睡眠センサーは、発展途上。同時に風評作りの製品でもある
高齢者社会先進国と呼ばれる日本では、2040年には約69万人の需給ギャップが発生するといわれている。1.5人で1人の高齢者を支える時代の到来を前に、介護人材の獲得や現場の生産性向上の機運が高まる一方で、現場の介護人材は疲弊するという深刻な状況が起こっている。そんな状況を打破しようと、各介護事業所ではDXの試みが行われ、それにともない睡眠センサーも業界に浸透しはじめた。しかし、そんな先進的な取り組みを行った事業所様の期待を叶えられていない状況がある。
安田:実際に睡眠センサーをはじめとする各種見守りシステムを導入している施設へ訪問すると、「ベッドから手がはみ出ただけで異常通知が出る」「通知がきたので訪室したら、すでに介護対象者が室内から出てしまっていた」などのお声が上がっていました。せっかく介護DXの取り組みをしてくださっているのに、「結局、使えないじゃないか」と睡眠センサー自体への諦めの声も耳にしたんです。悪い風評が広がることで、介護業界を変えるチャンスの到来が無駄になってしまう、と思いました。
エコナビスタは商品を作るだけの会社ではなく、介護現場で働く方々と共に高齢者を見守る『サービス』を提供してる会社です。つまり、現場でエラーが起こったときに、それはセンサーのソフトウェア側の問題なのか、ハードウェア側の問題なのか、アルゴリズムの修正が必要なのか、そもそもご利用いただいているユーザー様の使い方を変えれば解決するのか、など あらゆる角度から検証できる… そこが我々が関与する大きな価値だと思いました。
実際、安田 自ら介護施設に足を運び、お客様の現場を検証し、ヒアリングも行ったという。18名(当時)という少数精鋭型のエコナビスタだからこそ、CTOやエンジニアといった肩書や役割を超えた動きをするのは「当たり前のこと」と安田は言う。
山あり谷ありの開発中に見出した「自社開発」という起死回生の道
“介護用睡眠センサー”という困難を極める開発案件に取り掛かるのに、紆余曲折あっただろうと、グラフを書いてもらった。
安田:それまではエコナビスタも他社メーカーからセンサーの提供を受け、アルゴリズムのみを開発し商品を製造していたんです。介護現場からいただく声を受け、テスト品でデータを取り始め、アルゴリズム側の開発には成功しました。しかし、データと実態が合わず、センサーメーカーに問い合わせても、エラーの理由や仕組みを説明できないと言われたんです。我々としては、販売している商品にブラックボックスがある状態。説明のつかないデータには、我々がどれだけアルゴリズムだけを進化させても現場の問題は解決しない、そう思い、センサー自体の自社開発に踏み切りました。
採用するセンサー基板の決定後、はじめに行ったのがデータ取りだ。データはひたすら安田が各ホテルのさまざまなメーカーのベッドで自ら実験台となってセンサーを試し、出力データを獲得するところからはじめた。また、実験室にさまざまな介護現場の状況を再現し、実験を行った。
安田:センサーの原理は物理的な法則を理解しなければなりません。さらにその取得されたデータを実態と照らし合わせ、データを読み解き理解するには、生体に関する知識もないといけないので、そこはエンジニアとしての守備範囲を超える領域でもあります。私自身は、医学書等をかなり読み込んで、調べながら実験を重ねていました。
究極の正確性と即時性を求め、チームで開発サイクルの追い上げを図る
自社開発センサーの試作品をつくり、すぐに検証、アルゴリズムを開発。開発したアルゴリズムをセンサーに再度実装して再テスト… ここからはPDCAサイクルの速度を高め、さらにチーム一丸となって実装方法の模索を行った。
安田:約600回ほど実験を重ねていくと、結果をもとにセンサー原理とデータ値の振る舞いが理解できてくるようになり、社外の協力会社への指示出しができるようになってきます。そこでチームメンバーと実装方法を模索し、アジャイル式に開発を進めていきました。信頼関係のあるスペシャリストたちとモノづくりをしていたので、各課題をそれぞれのメンバーで解決していくという方法でスピード感をもって開発できたことが、勝因だと思います。
今回のセンサーは、延べ1万人を越える睡眠データを解析し開発した生体情報を学習するエッジAI機能と、生体判別のための200種類以上のスクリーニングフィルターが稼働するクラウドAIシステムが特徴だ(このふたつのAI機能をデュアルAIと呼ぶ)。デュアルAIにより、より正確なバイタルデータの取得が可能となり、現場で今起こっているエラーも回避できるという。多くの介護職員の方を支えるセンサーだからこそ、開発におけるこだわりもひとしおのようだ。
安田:「正確性」と「即時性」。これが究極のゴールだと思っています。介護現場では1分1秒を争う事態が起こっています。誤検知、誤発報、通知遅延などのトラブルは、現場にとっては死活問題です。正確性と即時性の実現のため、マットをあえて大きくすることで、ベッド上の広範囲で安定的にデータが取得できるよう工夫しました。また、ソフト側では、状態判定を1秒でも早くするため、アルゴリズムを作り込んでいます。
介護施設導入実績トップクラスの睡眠センサーは、ここで終わらない
すべては、介護現場の「不」を解消するため。介護施設導入実績トップクラスとなっても、エコナビスタの旅は終わらない。そして、安田の旅もここで終了ではない。このセンサーは10年後、30年後の未来をどう変えていくのか。最後に安田に聞いた。
安田:今後は、介護領域以外や高齢者以外の方にも睡眠センサーをご利用をいただいていると思います。これまでは、「介護」「見守り」という印象が強かったエコナビスタですが、高齢者でない方々へのライフサイエンスサービスの提供へと広がっていくはずです。我々には世界でも類を見ない高齢者の睡眠ビッグデータをもつ企業となっています。今後も、センサーから取得されるデータを解析し、さらに高性能のセンサーの開発や、データを利活用したサービスを提供していきたいと思います。
<記者後記>
初めて安田と会ったとき、失礼を承知でいうと、私が持つベンチャーのCTOのイメージと違った。ベンチャーのCTOは、もっとギラギラガツガツしていて、猪突猛進なイメージを持っていたのだ。しかし、安田は非常に物腰柔らかで、言葉を選んで話し、私の技術理解が追い付いていないときも丁寧に分かるまで説明してくれた。
今回、取材をしながら、なるほど、と思った。我々の立ち向かう課題は大きく、それにもかかわらず解決方法を捉えるためには、とても慎重で繊細な感覚が必要なのだ。
そんな彼は苦労話を聞いたときも、こちらが驚くほど淡々と話した。煩雑なアルゴリズムの解明は、地道で地味で果てしない闇を歩くかのようだ。思い通りにいかないことや、悔しかったこと、やり切れなかったことばかりだっただろう。それを「僕はベンチャーしか経験したことないので、これが当たり前と思ってるから苦労と感じないんだよね」と安田は笑う。
新センサーはエコナビスタが決して平坦ではない道を進むことができるCTOがいたからこそ生まれたのだと感じた。そして、このセンサーで介護の人たちが少しでも幸せになる様子が目に浮かぶ。センサーと共に見守る… そのことで、5年後、そう遠くない未来に”介護業界で働く”ということが憧れになる日がくるかもしれない… そんなことを願わずにいられない。
ライター:藤本麻衣子
ライフリズムナビ®+Dr.公式サイト:https://info.liferhythmnavi.com/